

あじはスズキ目アジ科の魚で「味が良い魚」だから「あじ」と言われているのは有名な話です。漢字では「鯵」と書きますが、諸説あり、魚偏に「喿(生臭いという意味)」の字の写し間違いであるとする説、美味しい時期が旧暦の参月(現在の4-5月頃)で「参」が使われた説、「美味しくて参る」の意である説など説に事欠きません。
「あじ」と言えば真アジが一般的で、北海道から日本周辺を回遊しているため、年中見かける魚ですが、全世界の熱帯から温帯の海域に広く分布しています。日本近海には60種類前後のアジと呼ばれる魚が生息しています。中でもマルアジやメアジは真アジに非常によく似た見た目なので混同されてしまうこともあり、知らない内に食べているかもしれません。高級魚として有名なシマアジ、くさやの原料になるムロアジ、釣りのターゲットとして憧れの的でもあるロウニンアジなどがいます。アジ類の特徴としては体の側面に沿って鋭いトゲのような「ぜんご・ぜいご」という鱗が発達しています。
新鮮なあじは目が透き通っていてみずみずしいことが基本ですが、目だけで判断するのではなく、肛門付近に内臓からの液だれがないか、エラが赤く鮮やかであるか目利きをしましょう。全体的にしっかりとした肉付きで体高はあって、身に張りのある頭部の小さいものが良いとされます。鮮度が悪いと、体表に光沢が無く乾いています。
あじは沖合を回遊して過ごす魚ですが、内湾などの浅瀬で生息する性質のあじがいます。最近ではテレビなどで取り上げられて知られるようになりましたが、脂が乗って黄金に輝く見た目から「キアジ・黄金アジ」や「瀬付きアジ」とも呼ばれて高値で取引されています。回遊性のマアジは「黒アジ」とされ、運動量が多いので身が引き締まって筋肉質です。どちらにもそれぞれの良さがあるので好みで選んでみましょう。
あじはその名の通り、味の良さから昔から愛されている大衆魚ですので、調理方法の説明か不要かもしれませんが、刺身やたたき、塩焼きや干物、揚げ物や南蛮漬けなど、様々な料理で楽しめます。特徴的な料理で知られているのが、千葉県房総半島の郷土料理の「なめろう」でしょうか。なめろうを焼いたものは「さんが焼き」と言われます。大分県の郷土料理である「りゅうきゅう」も美味しいあじの調理方法です。あじは日本全国でよく見かけますが、世界に目を向けるとイタリアンやフレンチなど、メジャーに使われる魚ではないことが意外です。あじを代表に鮮度が落ちやすい魚を丁寧に美味しく食べようと努力してきた文化が日本らしさかもしれません。
あじの栄養価でよく言われるのが、青魚に多く含まれるオメガ脂肪酸に分類されるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)です。これらは脳細胞を活性化させ、血液をサラサラにする働きが期待できる栄養素です。加熱調理で損失してしまうので、刺身やたたき、カルパッチョなど生で食べることをお勧めします。その他にもカルシウムやカリウム、良質なタンパク質を含んでおり、カルシウムを吸収されやすくするビタミンD、エネルギー代謝を補ってくれるビタミンB群などを含む栄養価の高い魚です。唐揚げや南蛮漬けなどにして、骨ごと食べると無理なく栄養を丸ごと摂取出来るので良いでしょう。
近年アジフライのブームなどがあり、あじの美味しさに再注目が集まる一方で、市場では漁獲量が減少して価格が他のお魚に比べても上昇しているとの声が各地から上がっています。早めの旬を楽しみたい場合は多少お値段を気にする必要があるかもしれませんが、旬本番の時期にはしっかり水揚げ量も安定すると思われるため、タイミングをしっかりと見定めてお買い物することをオススメします。
西日本の南海上ではあじの適水温となっていますが、東シナ海北部や日本海南部では適水温より低くなっています。今後、1ヶ月は海水温は上がる予想で、日本海や東シナ海の特産地でも次第にアジの適水温に近づく見込みです。水温が高い夏から秋にかけては水深10~20メートル付近に多く分布していたマアジも水温低下とともにその魚群はやや深い場所へと棲息場所を移していきます。
特産地近海では、平年より風が強い期間があった影響や寒気の影響、また、宮崎県近海は黒潮の離岸に伴う下層の冷水の影響もあり、平年より海水温が低くなっています。
2024年は海面水温が高い状態が続いていましたが、今年1月以降、特産地近海は寒気や強い風の影響で平年より海面水温が低い海域が広がりました。宮崎県など太平洋では黒潮の離岸も水温低下の要因となっています。
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